サイドベンツはおじさんっぽいか?~スーツのベントについて考える~

ファッション

伝えたいこと

サイドベンツは重厚感重視なので、40代のスーツにピッタリ!ただし近年の流れで、若々しく軽快な印象を与えるのはセンターベントであり、相対的にはちょっとおじさんっぽいかも…。

自分の関心のまま吸収したことを共有し、少しでも誰かの役に立てれば・・・!

ということで、今回はピンポイントのテーマですが、スーツの「ベント」についてです。

友人から「サイドベンツって、おじさんっぽい?」と聞かれたことをきっかけに、改めて「ベント」について色々と調べてみました。

すでに以下のサイトなど、まとめられている記事は多いですが、

【徹底解説】センターベントとサイドベンツの違い

一消費者の観点から、独断と偏見を交えてまとめてみたいと思います。

なお、ベントについては、スーツオーダー時のステップでも少しご紹介していますので、そちらもご覧いただけると嬉しいです。

~初めてのオーダースーツ~ステップ③-4仕様を決める(ボタンの材質とベント)

その他、スーツオーダー時に決めることも簡単にご紹介していますので、ご参照ください。

~初めてのオーダースーツ~ステップ①生地を選ぶ

~初めてのオーダースーツ~ステップ②採寸してゲージを選ぶ

~初めてのオーダースーツ~ステップ③-1仕様を決める(ジャケットのシングルorダブル)

~初めてのオーダースーツ~ステップ③-2仕様を決める(腰ポケットのデザインを決める)

~初めてのオーダースーツ~ステップ③-3仕様を決める(裏地の貼り方と袖ボタン)

~初めてのオーダースーツ~ステップ③-5仕様を決める(裏地選びとステッチ)

そもそもベントとは?

ベントは上着の後身頃の切れ込みのことで、英語では「通風孔」を意味するようです。

要はスーツ着用時に体を動きやすくするための、背中の「切れ込み」です。

ベントの種類

大きく3種類あります。

  • センターベント(背中の真ん中に切れ込みが1つ)
  • サイドベンツ(背中の左右に切れ込みが2つ)
  • ノーベント(切れ込みなし)

センターベント

センターベントは背中の中心で生地が分かれている仕様です。

乗馬の際に脚部を左右に開きやすくするため背中を開いたのが起源、と言われています。
(センターベントのことを日本語で別名「馬乗り」と言うのもここから来ているみたいですが、正直「馬乗り」と言う方にお会いしたことはないです…。)

特徴は、「軽快で活動的」な印象を与える仕様であること。

センターベントは、歴史的にアメリカ製のスーツやブレザー※に採用されることが多かった仕様です。
(※近年はクラッシック回帰の流れで、ブレザーでもサイドベンツが採用されていることもあります。)

アメリカ製のスーツといえば、昔はゆったりしたボックスシルエットで、ブレザーもカジュアル寄りのアイテムの1つ。

そういう経緯から、センターベントはややカジュアルな趣の仕様だと思っています。

なお、センターベントの派生形として「フックドベント」もありますが、基本的には同じ見た目なので割愛します。

少し古い記事ですが、以下に写真がありました。

フックドベント

アメリカントラディショナルな仕様だそうで、近年ではほとんど見なくなった仕様かな、と思います。

サイドベンツ

サイドベンツは背中の両端がそれぞれ分かれている仕様です。

サイドベンツの例。後身頃の両サイドに切れ込みがあります。センターベントのスーツは所有してませんでした。

こちらは軍人がサーベルを腰にさげやすくするよう、背中の両脇を開けたのが起源、と言われています。センターベントの「馬乗り」と同様、こちらも「剣吊り」と呼ばれるようですが、ほとんど聞かないですかね…。

サイドベンツは、歴史的にイギリスやイタリアのスーツに採用されることが多かった仕様。

特徴は、「重厚かつ正統」な印象を与える仕様であること。

現代的なスーツ発祥の地で伝統的なスーツを好むイギリス、さらにイギリスを源流とするイタリアのスーツに採用されたことが重厚感に影響しているのだと推測しています。

噂レベルですが、とあるファッション関係者の方が1990年代にイタリアの有名なビスポークスーツテーラー(型紙から作るオーダースーツのこと)を訪れ、センターベントでスーツを作って欲しいと言ったところ、

「そんなアメリカっぽいものは、うちは作らない!」

と言われたらしく、ベントがスーツの仕様でも重要な違いであることが伺えます。

なお、本当に細かい点ですが、これだけ「ベン」ではなく「ベン」なのは、左右2つに切れ込みが入っているため、英語での複数形での表現(”s”が付く)になっているからです。

ノーベント

ノーベントはその名の通りベントがない仕様です。

実はスーツの原型はノーベントだそうで、もともと室内着でありそこまで運動量が求められていなかったため、初期のスーツにベントは不要であった、と考えられています。

外出時にスーツを着用するようになった20世紀初頭からセンターベントやサイドベンツが主流となったため、ノーベントが最も古い仕様になります。

現在でも、フォーマルなタキシードはノーベントが通常だそうです。

ということで、ノーベントの特徴は「フォーマル」な印象を与えること。既製品のスーツでは全く見ないといっても良い仕様です。

一方で、近年のカジュアル化の傾向からシャツブランドが出している着心地の柔らかい「シャツジャケット」やニットブランドの「ニットジャケット」は、ノーベントのものもあります。

これは、ブルゾンやカーディガンみたいに軽く羽織るためのジャケットで、生地もニットやジャージ素材など伸縮性のある生地が使われることが多く、ベントを設けなくても十分に運動量を確保できます。

そういうことからなのか、スーツではなくブルゾンやカーディガンの延長線上のジャケットです、ということなのか、こういうカジュアルジャケットはノーベントのものが増えています。

ここからノーベント=カジュアル、のような、もとものフォーマルなイメージとは対極のイメージも出てきているのかなー、と個人的には感じています。

ベントの違いのまとめ

今までご紹介した違いを簡単にまとめると、

印象歴史的なつながり年代とのつながり
センターベント軽快で活動的アメリカ日本では若者向け?
サイドベンツ重厚で正統イギリス、イタリア若者が着ないので
結果的におじさん向け?
ノーベント最もフォーマル
→カジュアルへ?
イギリススーツでは採用されない
ベントの相対的な違い

現代のスーツではノーベントはほとんど採用されないため、選択肢はセンターベントかサイドベンツかの2択。

ゆったりしたアメリカ製のスーツにはセンターベントが、シェイプ感の強いイギリス・イタリア製のスーツにはサイドベンツが歴史的に採用されることが多かった、という歴史的なつながりから考えると、割とゆったり目のスーツにはセンターベントが、かっちり目のスーツにはサイトベンツが合うとは思います。

一方で、その軽快で活動的な印象のセンターベントは、若い世代の方が着る着丈の短いスーツと相性がよく、そこからセンターベント=若い、というイメージが出てきたのかな、と思います。

確かに、街中の20代の方のスーツで、サイドベンツ仕様のものはほとんど見ません。

若い世代の方向けに売られている既製品のスーツがそもそもセンターベントなので、彼らは意識せずにセンターベントのスーツを着ているだけかもしれません。

裏を返すと、若い世代の方がサイドベンツのスーツをあまり着ていないため、サイドベンツ=おじさんっぽい、という印象が付いた…、

結果としてセンターベント=若者、サイドベンツ=おじさん、というようなイメージが成立したのかも、勝手に推測しています。

個人的には、40代が着るべきかっちり目のスーツには、やっぱりサイドベンツが良いのでは、と思っているものの、若々しさを演出したい場合はセンターベントでも良いのかな、と思います。

センターベントの注意点

ただ、センターベントはお腹周り気になる40代には、ちょっと気にしていただく点があります。

センターベントは背中の真ん中に切れ込みが1箇所だけある仕様です。

なので、あまりにピッタリ着てしまったり、下腹部が太いとベントが開いてヒップが丸出しになります。

特にお腹周りが出ている場合や、ヒップが大きい方の場合は、後ろ身頃が引っ張られやすいため、注意が必要です。

さらに肩掛けのカバンを下げている場合は、余計に後ろ身頃が引っ張られ、ヒップが見えかかっている方を街中でよく見かけます…。

なので、センターベントのスーツにする場合は、ある程度のゆとりあるスーツをオススメします。